以前こちらで取り上げた”ファストフィッシュ”に続き、魚の消費拡大を狙う水産庁の次の一手、

それは「魚の知識や魚食文化を伝える“お魚かたりべ”の育成」だそうです。

“ファストフィッシュ”に対して「ネーミングが安易すぎる」と指摘した私の声が届いたわけでは

もちろん無いのでしょうが、今度は少しばかり考えた名称にしたようです。

ですが、前の時にも述べたように、ターゲットを若い主婦を中心とした世代と考えるならば・・・

彼女たちは、「語り部」の話をゆっくり聞く程の精神的ゆとりがあるのかどうか、これまた疑問

に思ってしまいます。

“お魚かたりべ”を報じる記事によれば、(若い世代の魚離れを防ぐために)「水産庁は現代の

ライフスタイルも踏まえ、手軽に食べられる魚商品を『ファストフィッシュ』ブランドに選定、消費

者の知識不足を簡略化でカバーする戦術を展開、一定の成果を上げている。だが、『手間を

かけても魚を食べたいという土壌を育てないと、足腰の強い魚消費につながらない』との指摘

もあった」ためだとしています。そして、第一陣の“お魚かたりべ”として今回任命された人は、

「漁業関係者や水産会社社員、市民団体のメンバーなど、魚についての食育授業や調理レシ

ピ普及などの実績を積んだ人材」とのことで、その人たちが具体的にどんなことをされていくの

かは、まだ不明ですが、たぶんイベントなどの「特別な機会」を通じて活躍されていくことだと思

います。

それはそれで良いのですが、『手間をかけても魚を食べたい』と本当に消費者が思うタイミング

とは、残念ながら「特別な」イベントなどの「機会」ではなく、店頭に並んだ魚を見て「この魚って

美味しいって聞いたけど、どうやって食べたらいいんだろう?」と思うその瞬間だと思われるの

です。

昔、街の魚屋さんでは、お客さんから「これってどうやって食べたらいいの?」と聞かれれば、

一番美味しい食べ方と調理の仕方、そして手間がかかる場合はササッと捌いてくれたものです

が(数少ない魚屋さんは今も。一部スーパーの鮮魚売場でも最近は同じような対応をしてくれ

ますが)、これが最も身につきやすい魚の知識の習得法ではないかと思います。

少し回りくどい言い方をしてしまいましたが、マーケティング的に考えると、消費者がその商品の

情報を一番知りたいと思うのは、まさに今、買おうかどうか考えるその時点(これをポイント・オブ

・パーチェス=POPといいますが)であり、将来的に購買するかどうか(家で食べるかどうか)も

わからない食材に対しての関心度合いとはおのずと異なってくるものです。

食材としての魚の知識を広めていくことはとても良いことだとは思いますが、その前に、「なぜ

これほどまでに魚離れが進んでしまったのか」を、生産の現場と流通全体の仕組みの中から

捉え直し、考え直していかないと決定的な打開策は見いだせない気がします。

一方で漁業資源の枯渇が危惧されていながら、売れない魚は「獲らない・出さない・並べない」

では、いつもでたっても問題は解決されず、一部の「売りやすい魚」だけが市場に出回ることに

なります。 『骨なし魚』は、まさにその典型例だと思いますが、「食」の問題は、ただ目先の利益

や対処療法だけを追及するのではなく、未来に向かってしっかり考え、根本を見据えて取り組

んでいってほしいと思うのです。

 

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